『新自由主義か新福祉国家か』で、渡辺氏は民主党を政策面と組織面から分析しています。新自由主義・構造改革による餓死・自殺・無保険・児童虐待・ワーキングプアなど社会破綻が起きた、自民政治批判の受け皿に民主党がなった、反貧困の闘い・社会保障(後期高齢者医療、障害者自立支援など)各領域での闘いの高揚を反映して、民主党の政策転換が起こった、と述べています。①各論的政策で新自由主義的政策が減り②福祉拡充が前面に出る③自衛隊派兵のニュアンス変更(イラク派遣自衛隊の即時撤兵など)です。
「教育・子育て」領域で、学校選択制、通学区域撤廃、認可外保育所増設など新自由主義的な政策から、子ども手当、高校授業料無料化、母子加算廃止見直しなど福祉拡充への転換が行われた。しかし、ダムなど大型開発押し付けをなくすという「分権改革」、族議員と官僚の結託をなくすという「政治主導」、公務員削減・衆院比例定数削減などの「小さな政府・小さな議会」は変わっていない。これらは、新自由主義国家の方向を持つ構想でもあり、グローバル化した大企業の要請だからである。民主党も市町村合併や道州制も謳ったが、小泉構造改革・「三位一体改革」で「地域が壊れていく」「中央と地方の格差拡大」と批判し、小沢の持論「300基礎自治体」が入れられたことで道州制は否定された。
民主党政策の、教育・子育て、医療・福祉などのマニフェストで見られる福祉国家型政策と、新自由主義型国家政策とは整合するのか、と問いかけ、民主党に3つの構成部分(頭部、胴体、手足)がある、と指摘しています。
頭部は民主党執行部で、5原則(①政治家主導②内閣の下の政策決定に一元化③官邸主導④絆の社会⑤地域主権)を標語に、新自由主義・自由主義派(鳩山由紀夫、菅直人、岡田克也、前原誠司、藤井裕久、仙谷由人など)が、反開発型政治、反自民党利益誘導型政治「脱官僚政治」を目指す。しかし国民の怒りに支えられて政権が出来たことを自覚し、できるだけ福祉の政治を実現しようとしている。これを渡辺氏は「余儀なくされた新自由主義派」と命名し、その根源の問題点を次のように指摘しています。
第1に、今の政治の諸悪の根源が「官僚主導の政治」にあるといっているが、これは全くの誤りであり、官僚は手先に過ぎない。官僚を指導し、圧力をかけているのは、究極的には、アメリカと大企業、財界である。第2に、自民党の開発型国家を壊すことに執念を燃やしているが、それを右から再編するために「自民党をぶっ壊す」として行った小泉構造改革と変わらない新自由主義型国家構想しかなく、福祉型国家を構想できていない。第3に、片や国民の「反構造改革」(福祉施策)の期待、他方財界・財務省による財政肥大化阻止の圧力の下、2009年度予算編成に見られるように、軍事費、政党助成金、大型公共事業費にメスを入れることなく、マニュフスト財源確保を口実にした一律削減が始まった。(小泉構造改革で活躍した「構想日本」の加藤秀樹事務局長の事業仕分けは乱暴に福祉・文教予算を削減)。
民主党の構成部分の第2は、小沢派とでも言うべき勢力で、民主党の心臓を含めた胴体部分、と指摘しています。地場産業、ゼネコン、農家層を民主党が吸収し自民党の支持基盤を切り崩すとともに、連合と組んで地方の自治労、日教組網を利用した労働者票の掘り起こしで衆院選を大勝し、150名の巨大な小沢派を党内に形成した。陳情窓口の幹事長室一本化によって自民党議員の利益誘導をシャットアウトし、医師会、農協の屈服をはかり、自党議員の個別陳情を認めないことで党内での小沢体制を固める。これは自民党利益誘導型の民主党版であり、その独占を小沢は着々と実行している、と厳しく指摘しています。
第3のグループは、社会保障や雇用、教育など各分野の利益集団、運動や労働組合とも連携して「構造改革」に反対して来た勢力。民主党マニフェスト各論の制作者であり、その実現に力を入れている中堅議員グループ。しかし彼らが実現しようとしている福祉や教育、介護や医療を実現できる国家、自治体についての構想が無く、「政治主導」「地域主権」をオウム返しに繰り返すだけだ、と指摘しています。
複雑に関わり、対立する3つの構成部分のそれぞれに対する働きかけが必要であり、新しい福祉国家像の提示が必要だと提起し、安保・憲法政策では、中堅グループ内でも、護憲の立場に立つ勢力ははるかに小さいため、外から、運動が一層強い声を出していかないと、容易に、自公政権と変わらない政策が打ち出される危険は少なくない、と指摘しています。
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