新日本出版社刊、日本共産党文教委員会責任者藤森毅氏の論考です。第1部が「教育制度にまともなルールの確立を」「教育基本法改悪をのりこえる展望」「民主党政権と教育の課題」の3つのテーマで展開され、第2部は「古い学力政策を脱ぎ捨て、新しい学力政策へ」「モラルの形成と民主主義」「子どもの貧困を考える」「『世界一高い学費』を解消するために」「民主的教師論の今日的意義、補論・教師の困難に思いをよせて」「歴史教科諸問題を考える」と教育政策各論を展開しています。
「まえがき」で「教育はすべての人が経験する身近なもの」「一党一派のものではない、みんなのもの」で「誰もが語ることができるし、語られたほうがよい」として「日本共産党という政治の場にいる者が、日本の教育をどう見ているか、を述べる」と言っています。
日本とヨーロッパを4分野で比較しています。①子育てしやすい親の働き方ーー毎夕家族がそろう国、そろわない国②学費の無償ーー学費のかからない国、「世界一の高学費」の国③競争の抑制ーー受験競争のあまりない国、つよい国④民主的な学校運営ーー保護者・子ども・教職員が運営する学校、トップダウンで運営される学校、と日本の教育のゆがみを指摘しています。
続いて、ヨーロッパだけでなく国際的なルールに照らして、日本政府の問題点を明らかにしています。①ILO188条約のうち、48のみ批准し労働時間関係はゼロ。特に残業時間上限の法定を義務付け8時間労働を決めた1号条約を批准せず②国際人権規約批准の際、高校及び大学の無償化を求めた2つの条項を保留(マダガスカルと日本のみ)③子どもの権利条約第29条「児童の人格、才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること」などにもとづく調査所見で、「競争の激しい教育制度が存在し、子どもの身体的および精神的健康に悪影響が生じている」という、異例の勧告が出された。④ILOユネスコの「教員の地位に関する勧告」で、「教育の仕事は専門職」とし「教員団体(教職員組合などー引用者)は教育の進歩に大いに寄与しうるものであり、したがって教育政策の決定に関与すべき勢力として認められなければならない」に反し、日本では教職員を統制の対象とし、教職員組合を抑圧の対象としてきた、と告発しています。
日本における「まともなルール」形成をめぐる攻防、として、戦前の教育、戦後の教育改革とその逆流、新自由主義と歴史をふまえ、提言しています。①教育の無償化など教育制度つくりかえ②学力テスト競争など不当な「教育改革」を清算し国民の教育要求にもとづく運動③「教育の主人公は子ども」(子どもの権利条約)にもとづく子どもの参加④教育改革を支える理論・哲学の重視、を指摘しています。
1945年敗戦後の日本で「教育は、日本の民主主義の背骨をつくる社会的使命を自覚し、荒廃した国土の中にあって希望で輝いていた」と振り返り、「今世界と日本は戦争と平和、環境問題、飢餓と開発、貧困の拡大、人間関係の歪みなど、明らかに新しい社会への移行を求め」「どんな社会を実現するのか 、という角度から、教育の使命がつかみなおされたとき教育は強く輝く」と述べています。
2006年数を頼んだ自民・公明の暴挙により改悪された教育基本法が、「国を愛する態度」を掲げたが、国会での志位質問などで「愛国心通知表」を撤回させた。また、「学力テスト最高裁判決」(1976年)で「国家的介入についてはできるだけ抑制的であることが要請される」「子どもの教育は、教育を施す者の支配的権能ではなく、何よりもまず、子どもの学習をする権利に対応し、その充足をはかりうる立場にある者の責務に属する」との判決は政府を拘束する。このように改悪教育基本法は、憲法との矛盾に突き当たっている、と指摘しています。
民主党政権が、自民党型の「競争と管理」の教育から脱却するという明確な立場はないが、国際人権規約「留保」撤回、自公政権「教育改革」の見直しなど、新しい可能性が生まれている。しかし「自治体の長が責任を持って教育行政を行う」(民主党政策集index2009)とする民主党のやり方は、「文科省言いなり」から「首長言いなり」に変わるだけで、民主主義的な教育行政、教育の自主性を確保する具体策は示していない。
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