松田久一著『「嫌消費」世代の研究ー経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち』(東洋経済新報社)を興味深く読みました。日本マーケティング研究所社長である著者の、「世代論」による日本経済の現状分析と将来予測が展開されています。
「嫌消費」とは「クルマ買うなんてバカじゃないの?」「大型テレビなんていらない。ケータイのワンセグで十分」「日本語が通じない海外旅行なんて楽しめない」などと言う20代後半の若者の消費行動のことで、「収入に見合った支出をしないこと」と著者は定義づけます。年収200万円以下の低収入層が増大し、収入低下による節約の面もあるが、収入が増えても消費を増やさず「とりあえずは、30歳までに1000万円の蓄えをすればなんとかなる」といった声をよく聞く、と述べています。
景気が回復し、個人収入が戻れば消費も回復する、と一般的には考えられているが、「嫌消費」というのは、いくら収入が回復しても支出は増やさない態度のことである、と言い、国内総生産に占める個人消費支出の割合が58%(アメリカ71%、イギリス62%と日本は相対的には低いが)と大きく、個人消費の堅調なくして、現在も将来も成り立たない、と強調します。
嫌消費現象は誰によって、なぜもたらされたのか、として、世代論を展開します。「敗戦」が祖父母に当たる「焼け跡世代」を生んだように、「バブル崩壊」という経済敗戦が生んだ世代、すなわち「バブル後世代」が、それを担っている、と言います。1981年石油ショック後の不景気の時期に生まれ、小学校時代にバブル経済絶頂期から中学校入学と共にバブルが崩壊し「失われた10年」の長い景気低迷に入り、1995年の阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件、「いじめ自殺」などが社会問題となり、2000~2004年「就職氷河期」を体験した世代だ、と言います。
この世代は、戦後最悪の就職難の体験から「社会から見捨てられた」という、強い劣等感を抱く傾向が生まれた、と考えることも出来る。しかし、小学校時代の教育にも原因がある、と著者は言います。コツコツと仲間と何かを成し遂げる勤勉の価値が、バブル期には軽視され崩壊後は称賛される、社会的価値観の転換と混乱をもたらしたこと、また、「いじめ」体験によって友人への信頼関係がうまく形成できないと、勤勉性の感覚がうまく学習できない、と指摘します。
JMR調査から、バブル後世代の、普段の生活に抱える強い不安意識、劣等感の強さが抽出されています。不安が高まると、予備的貯蓄動機が高まり支出意向は抑制される。また、収入見通しが悪くなると、支出は抑制される。現在の消費低迷は、景気循環の面に加え、世代要因が重なっている、と著者は強調するのです。
この著書から、経済社会の大きな構成部分である人々の消費行動に、その生い立った時代が影を落とし、それがまた、経済社会に新たな問題を投げかけること、経済社会は人間社会そのものだ、ということを学びました。