不破哲三社会科学研究所長(前日本共産党議長)著『マルクスは生きている』(平凡社新書)が発刊されました。
不破さんは、マルクスを「唯物論の思想家」「資本主義の病理学者」「未来社会の開拓者」の3つの顔で紹介しています。
世界観としての「唯物論」、自然の「弁証法」、社会・歴史観としての史的唯物論、これらは現代の常識となっている、マルクスの功績は現代日本社会にも浸透している、と不破さんは指摘しています。同時に、「現実の社会や歴史の実際を研究もしないで、鵜呑みにしたその『結論』なるものだけを振り回す自称『マルクス主義者』が現れると、その人たちとは、いつも明確な一線を断固として画した」と記して、マルクスが、新婚時代も病気とたたかった晩年も、膨大な歴史研究のノートを残していることを紹介しています。
「資本主義の病理学者」の項では、冒頭に「はたらけどはたらけど猶わがくらし楽にならざりじっと手を見る」(石川啄木)を掲げ、「マルクスの目で現代日本の搾取の現場を見ると」では、ルールなき資本主義を告発し、「社会による強制が資本の横暴を規制する」とのマルクスの発見を紹介しています。
圧巻は「資本主義の『死にいたる病』-周期的な恐慌」です。1929年に流行った、ある炭鉱労働者の家庭での話。子「なぜストーブをたかないの」母「お父さんが首になって石炭を買えないからよ」子「なぜ首になったの」母「石炭が売れないで炭鉱がつぶれたからよ」ー資本主義の矛盾をついた、この話を冒頭に掲げ、恐慌論へのマルクスの挑戦を紹介しています。
08年に始まった今回の世界経済危機については、「マルクスが恐慌論で解明した資本主義の矛盾の爆発」とズバリ指摘しています。さらに、資本主義の破壊的作用が引き起こした「究極の災害ー地球温暖化」について、資本主義の限界ー資本主義をのりこえた体制に前進しなければならない場合が起こる、と指摘しています。
「未来社会の開拓者」では、マルクスが人間社会の歴史的な発展の総括と資本主義的生産の分析から「生産者と生産手段との結びつきを回復する」=「生産手段の社会化」を、未来社会すなわち社会主義・共産主義社会の最大の特徴としました。
また、マルクスは未来社会への過渡期を探究しています。政治的な過渡期だけでなく、新しい経済体制を作り上げる過渡期があり、国家など外部からの介入がなくても、経済法則自身の作用で古い体制の経済法則に打ち勝って自分の道を開いていく。未来社会への過渡期は、封建制社会や資本主義社会の形成期に匹敵する時間を必要とするだろう、というのがマルクスの結論であり、これは大事な意味を持つ、と不破さんは言います。
「ソ連とはいかなる存在だったか」として、ソ連崩壊を、歴史的巨悪の崩壊として歓迎したこと、もしマルクスがソ連社会の現実と行動を目撃する機会があったら、「これがマルクス主義の未来社会ならば、私は『マルクス主義者』ではない」との言葉を繰り返したことでしょう、と言っています。
この本は、「マルクスをマルクス自身の歴史の中で読む」という立場でマルクス研究を行ってきた不破さんの「現代を語る」書となっていると思います。
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