特集のトップが、二宮厚美さん(神戸大学教授)に聞く「新しい政治状況と経済危機の打開」です。その中の「民主党政権とその政策をどうみるか」を興味深く読みました。
「国民の要求に沿った政策実現という側面または半身と、過去の民主党の歴史を引きずった片面または半身、この間にズレや乖離があって、民主党総体は両者の『寄り合い』または『ねじれ』の形で構成されている」と喝破しています。
「後期高齢者医療制度や障害者自立支援法の廃止、生活保護母子加算の復活、農家に対する個別所得補償制度、公立高校無償化、日雇い・登録型派遣原則禁止、最低賃金引き上げ」といった「国民の要求にまともに向き合ったいわば上半身部分において、民主党は、先の参院選以来変身を遂げてきた」と言います。
「ところが、もう一方、民主党のもつ過去をひきずった部分がある」として「小選挙区制を徹底し、二大政党による政権交代を完成させようとねらっている」。民主党の個別政策でも「児童手当としては国際的に最高水準を打ち出した」が「保育制度、学童保育の充実という現物給付型のサービスについては、民主党の政策では強く出されていない」と指摘します。また、「個別所得補償で個々の農家の赤字を補填するのだから、農産物の自由化を進めてもよい」といった理屈で、アメリカとの自由貿易協定締結を促進しようとしたことなどを挙げ、「新自由主義に対抗する面と、いまだ残る親和的な面」との両面を見ておく必要がある、と言います。
「民主党の政策の一貫性の欠如、政策上の問題点」が指摘されています。「CO 2排出量25%削減という環境政策はよいが、高速道路無料化、ガソリン税の暫定税率廃止では整合性がない」「障害者自立支援法の応益負担廃止はよいが、同じ構造の介護保険の応益負担原則には触れていない」「『分権化』の名で国の財政責任を自治体に転嫁する」「子ども手当ての財源のため、配偶者控除廃止、扶養控除廃止と合わせ、自治体に対する負担金・補助金の削減で捻出」などの問題点を指摘しています。
二宮さんは「社会保障政策の体系が問われている」として3点を強調しています。①ヨーロッパ型福祉国家の教訓を生かし、労働運動の力を基盤とする福祉国家をーー社会保障への企業の責任や負担を曖昧にしない②現金給付型の所得保障と現物給付型の社会サービス保障のバランスある体系をーー消費税20%にし低所得者に現金給付(新自由主義を懺悔した中谷巌氏の説)など、財源を消費税に求めるのは問題③全国民共通のナショナルミニマム保障ーー民主党は補助金で高校授業料実質無料化する案だが、将来廃止するとしているのでは保障にならない。
最後に「総選挙がつくりだした政治状況の下、運動の側にとって『打倒対象』ではない『利用可能』な新政権に対して、国民の側も二面からの対応が必要になる」と結んでいます。